雨とたき火と音楽と
久しぶりの青空だった。公園を本を読んでいた。
「やあ、アラフォーマン」
枯れ葉を踏み鳴らしながら友人が歩いてきた。手にはギターを抱えている。
聞けば今度の演奏会の練習をしたいらしい。
「ここで練習をしても良いかい?」
そんなの、大歓迎に決まっているじゃないか。
でも、楽器を弾くには少し寒い。たき火でも囲みながらやってみようか。
ほどなくバイオリン奏者も合流した。音程を調整して、早速曲の練習が始まる。
寒風に乗せて、二人の音が響いた。ぱちぱちと爆ぜるたき火の音が、どことなく寂しげなメロディーに色を添える。
歌うでもなく、踊るでもなく、ただ黙って聴いていた。
日は陰り、少し寒い。火にあたる膝先だけがやたらと熱い。
弾いているのは知っている曲。いつもホイスコーレで歌う曲。そのはずなのに、なんだか違って聞こえるんだ。
いつもはバイオリンがいないからかな。外で聴くことがないからかな。
聴衆は僕一人。なんて贅沢な演奏会。
途中で雨が降ってきたけど、そんなことを気にするもんか。
たき火の火はもう十分に大きくて、少しの雨にはびくともしない。その横で雨粒が枯れ葉を叩く。トントトンと、不規則なリズムを刻む。
気付けば辺りは薄暗く、楽譜も見えづらくなっていた。
「じゃあ、覚えている曲をやろう」
「OK」
雨音が止んでも演奏は途切れなかった。もう一曲、もう一曲と。
また好きな曲が流れた。体が勝手に動き出す。肩を揺らして聴いていると、「歌える?歌ってみてよ」と言われた。
歌詞は覚えていないんだ。頭に残っているのはメロディーだけ。
だから歌は歌えないけど。
ギターとバイオリンの弦楽に合わせて、ぶしつけな鼻歌が重なった。北欧の歌の哀愁も、二人の音の美しさも、すっかりどこかに消えてしまった。
良いのかな。まぁ良いか。聞いているのは森の木だけだ。
間ではたき火が変わらずぱちぱち鳴って、それはやっぱり音楽の一部みたい。雨に打たれたいつもの森に、静かに響く四重奏。
歳はアラフォー、性別は男。風薫る季節、北の大地で生を受ける。家庭なし、収入なし、計画性なし。まだ知らぬ場所での生活にあこがれて旅立ってしまったアラフォーマン。
2019年5月に日本を離れ、デンマーク、リトアニア、ジョージアなどで学校に通ったりしながら過ごす。2024年9月現在、日本語を教えるボランティアとしてベトナムに滞在中。
好きなもの:公園、散歩、ジャグリング
苦手なこと:料理、おしゃれ、あと泳げません
コメント
残り少ないお時間どうお過ごしでしょうか?
最近更新なく寂しく感じてます。
12/22には日本いらっしゃいますか?
ええと、麻雀ふぃざーず?さん、こんにちは。
お返事遅くなりごめんなさい。反応が悪い中、いつも応援してくださってありがとうございます。
残り少ない時間ももう終わったので、生活のリズムを作り直してやっていくつもりです。