生まれながらに恵まれている
経済は人を縛る。
より良い暮らしを求めて、人は職を変え、街を変え、自分を変えていく。
日本に生まれた幸運
日本は間違いなく経済的に恵まれている国だ。平均月収は2,535ドル。世界の多くの人がうらやむ国だ。
あなたがもし海外に興味があるならば、日本に生まれたことはとてもラッキーだ。真面目に稼いで貯めていけば、金銭的には手が届くところにあるのだ。
もちろん、海外に行くとしたら縛るものは目先のお金だけではない。けれど少なくとも、他の多くの国よりずっとチャンスがある。
チャンスは「生まれた国」で決まってしまう
日本を離れていくつかの街をまわっていて、気付いたことがある。
ヨーロッパにいてもカナダやオーストラリアから来ている旅行者にはたくさんいる。ドイツやイギリス、フランス人なら山のように会える。
けれど、同じヨーロッパの国なのに、すぐ近くにある国なのに、その国以外では全然会わない人たちがいる。
彼らは旅行をしない。働きには出るけど、旅行はしない。
ドイツを豊かにするためのEU
EUの理想は素晴らしい。ヒト、モノ、カネの移動を自由にし、共にヨーロッパとして発展していこう、と。
その結果、ドイツやフランスなどの豊かな国に人が集まり、地方の都市からは仕事がなくなった。
確かに、ヨーロッパ全体として見ると経済的に強固になった。資産を得るチャンスも増えた。そして、貧富の差も拡がった。
移動の制限をなくすと、富は一番儲かるところに集まる。今のEUはドイツを設けさせるためのシステムだ。高い製品競争力と、安く集まる労働力。その結果、地方からは若者が消える。
例えば、日本国内を見てみよう。もちろん国内では移動に制限を設けていない。だから人は東京や大阪などの大都市に集まる。より良い仕事があるからだ。
それでも日本が回っているのは、東京で稼いだお金を地方に回す、国家としての税制度があるからだ。地方への補助金がなくなれば、地方都市が自分だけで立ち行かなくなるのは火を見るよりも明らかだ。
EUにはそれがない。EU加盟国分担金という、国家の財政規模に応じて払う税制もあるが、システムの歪みを是正するにはとても足りない。
「“一つの共同体”として、好きなところで働けるようにしよう。ただし、国内で稼いだカネは“国外”のためのものではない」
そうして人々は稼ぎに出かけ、地方は徐々に疲弊していき、差は日増しに拡がっていく。まともなお金を稼ぎたければ、豊かな国へ行くしか選択肢はない。
ベラルーシ、一か月の労働の対価は
僕が現在働かずに生活をしていると言うと、「誰がスポンサーなんだ?」と聞かれることがある。
スポンサー?最初はその質問の意味するところを掴めなかった。
「自分で働いて貯めたお金で来ている」というと、「本当か。なんて偉いんだ」と感心される。なんでこんなに褒められるんだろう。
実は、それらの国では、「働いてお金を貯める」こと自体が難しいことなんだと気が付いた。毎日きっちり働いて、節約して節約して生活して、それでやっと収支が回る。貯金というのは特別な行為だ。
あるホステルでベラルーシ人と話していたときのこと。話題はデンマークのフォルケホイスコーレについてだった。
ベラルーシ人「でも、デンマークは物価が高いでしょう。一体いくらかかるの?」
僕「学費、家賃、食費込みで4か月48万円だったよ。デンマークの政府からの補助金が出てるんだ」
ベラルーシ人「デンマークにしてはずいぶんと安いのね。それでも私たちには手が届かないけど」
ベラルーシの平均月収は438ドル(約395ユーロ、47,000円)。彼女の場合は300ユーロ。そこから家賃や食費などの生活費を差し引くと、どんなに頑張っても月に50ユーロ貯めるのが精いっぱいだそうだ。
シェンゲンエリアに来るのにビザが必要な彼女は、そのビザ代60ユーロ(約7,000円)のためだけに一月以上も働かないといけないのだ。
残念なことに、2020年2月よりシェンゲンビザの申請費が80ユーロに値上がりした。彼女が次に友達に会いに来れるのは、また少し先に延びるだろう。
イスラエルもブルガリアも一緒だ
ブルガリアに滞在していたときにこんなことがあった。
同じ宿に泊まっていたイスラエル人男性と一緒に近所の商店に買い物にでかけたときのことだ。
道ですれ違った男性がにこやかに話しかけてきた。「どこから来たんだい?」と。さほど大きくはない街だ、観光客はすぐわかるのだろう。
彼はイスラエルから、僕は日本からだと挨拶をし、たわいもない話が始まる。道ですれ違った人といきなり話すこの感じ、悪くないと思う。
ブルガリア共産時代と今とどっちが良かったかなんて話していると、話題は収入と職についてに移った。
ブルガリア人の彼は「共産時代は悪くなかった」と言う。意外にも感じる意見だが、そういう人は少なくない。「社会主義には競争がなく、仕事はあった。少なくとも生活は安定していた」と。
彼はこぼす。「豊かな国なら資本主義も良いけれど、我々のような国は競争に敗れてどんどん苦しくなっていく。あなた達はお金持ちの国に生まれて幸運だよ」と。
イスラエル人の彼は言う。「そうだろうか。確かに給料は高い。だが、その分生活にかかる出費も多い。収入だけを見ててもね、本当のところはわからないんだよ」と。
一見、もっともな意見にも聞こえる。豊かな国は、それに比例して生活コストも高くなる。収入だけを比較しても意味はない。
でも、それは詭弁だ。
確かに、イスラエルの生活コストは高い。生活費用指数をみると81.15だ。ブルガリアの36.70と比べて、生きるために必要なコストは2.2倍になる。
でも、収入を見たら、それ以上の差がある。
イスラエルの平均月収は2,358ドル。一方、ブルガリアは612ドル。実に3.8倍の開きがある。
そこから生活コストを差し引くと、残るお金はもっともっと違ってくる。
やっぱり、豊かな国ほど豊かじゃないか。だからみんなが行きたがるんだ。
2つの選択肢:残るか、出るか
どの国にいても「この人は優秀なのだろうな」と思わせる人はいる。何か国語も流ちょうに操り、頭の回転も速い。
だけれどそんな人たちも、その国にいる限りは大した収入は見込めないとしたら。
豊かな国に行くことで、今までの何倍ものお金が手に入る。新しい友人もできるだろう。
その代わり、親や兄弟とは離れて生活することになる。もちろん故郷の友人とも会えなくなる。ときには妻や子どもと離れることもある。慣れ親しんだあの味は食べられない。母語で話せる相手がいない。
今の場所に留まれば、その全てとつながっていられる。ただ一つ、裕福な暮らしを諦めれば。
もしあなたがその立場であれば、一体どんな選択をするだろうか。少し考えてみてほしい。
歳はアラフォー、性別は男。風薫る季節、北の大地で生を受ける。家庭なし、収入なし、計画性なし。まだ知らぬ場所での生活にあこがれて旅立ってしまったアラフォーマン。
2019年5月に日本を離れ、デンマーク、リトアニア、ジョージアなどで学校に通ったりしながら過ごす。2024年9月現在、日本語を教えるボランティアとしてベトナムに滞在中。
好きなもの:公園、散歩、ジャグリング
苦手なこと:料理、おしゃれ、あと泳げません