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アラフォーからの挑戦状。

『国際メディア情報戦』 メディアは踊る、真実を求めて

情報は、自分だけが知っていても意味はない。現代では、それをいかに他の人に伝えるかが勝負になっている。

PR = Public Relationsとは一体何なのか。何を目指して、どのような役回りを行うのか。メディアを使った国際世論の形成を淡々とした筆致で語る。

著者はNHK報道ディレクターの高木徹氏。『戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争』で名を馳せたドキュメンタリー作家だ。
本書でも、ボスニア紛争のセルビア悪玉論はいかにして作られたのかに始まり、アルカイダに魅了される若者がなぜ次々と生まれたのか、アメリカは戦略としてメディアをどのように利用するのかといった、息の詰まるテーマを実例たっぷりに紹介する。情報はただ得るだけのものではなく、自身の狙いに沿うように作りあげ、周りにそれを認識させるためのものなのだ。そこでは、メディアと、メディアを利用しようとしている者との高度な駆け引きが行われている。様々な思惑が駆け巡り、せめぎ合い、研ぎ澄まされた情報が私たちのもとに届くとき、それは、もはや誰かの意図と無関係ではいられない。

評価:★★★★★

書籍情報

国際メディア情報戦
メディアの裏側で行われている攻防を明らかに

所感

「国際メディア情報戦」――それは、グローバルな情報空間で形作られる巨大な情報とイメージのうねりであり、それをどのように誘導するのか、または防ぐのか。国家、企業、PRエキスパート、メディアの担い手たちの間で行われている、銃弾を使わないもうひとつの戦いだ。

まえがき

本書の1章では、ボスニア紛争をプロデュースしたアメリカのPR会社のエピソードが語られる。
1990年代のボスニア紛争。ユーゴスラビアからの独立を宣言したボスニアと、それに反対するセルビア系ボスニア人の戦いは泥沼に陥っていた。抵抗勢力はお互いがお互いを攻撃し、略奪し、虐殺しあった。そこには正義など無く、あるのはただの争いだけだった。

国際世論はこの紛争に特別な関心を抱いていなかった。どこか遠い世界で起きている、よくある争いの話だった。しかし、ある男のPR戦略によって、突如この紛争がメディアに取り上げられるようになった。セルビア側がボスニア住民を虐殺する映像が流れた。ボスニアの外相の会見が取り上げられ、セルビアの残虐行為を伝えた。徹底的に選び抜かれた言葉、そのタイミングも、全て緻密に計算されたものだった。これらの情報に曝され、世論は無関心で居続けることは出来なかった。

そこに正義は無かった。そのはずだった。しかし、絶対的な悪が作り上げられた。セルビア共和国の大統領、ミロシェビッチだ。人は、国という漠然とした対象を憎むことはできない。そこには、顔と名前を持った、具体的なアイコンが必要なのだ。そのために選ばれたのがミロシェビッチだった。悪を作り上げたことで、それに抗う勢力は世界が支援すべき存在となった。

cleansingとは本来肯定的な言葉です。汚れた服はcleansingすればきれいになります。そういう言葉を、ある民族を除去するという意味で使うとぞっとする表現になります。

第1章 情報戦のテクニック

世論をコントロールするために嘘を吐くことはない。極端な誇張や歪曲は行わない。ただ、どの事実を知らせどの事実を隠すべきか、それらをどのタイミングで公開すべきか、どのように伝えれば最大の効果を得られるかを突き詰めた上で実行する。それは、ある狙いを持った偏った情報であったとしても、どう切り出しても間違いのない事実の側面なのだ。

この様な思惑に対し、メディア側もただ黙って操られている訳ではない。メディアは公平でなければならないし、そうあるように努力を怠らない。

しかし、著者はこうも語る。どんなに公平であろうとしても、それが人の手によって作られている以上、そこには何らかの意図の干渉を避けられない、と。発信する者の視点が絡み、重要と考える部分が切り出される。情報は情報であるが故に、ありのままの真実であることはできないのだ。

関連書籍

『オシムの言葉』 木村元彦

元サッカー日本代表監督のオシム氏の経歴を追ったルポルタージュ。サッカーにおける戦術などの話よりもオシム氏の考え方に焦点を当てた内容で、サッカーに詳しくなくても十分に楽しめる。ボスニア出身のユーゴスラビア代表監督として、紛争で分裂する国家にチームをバラバラにされていくエピソードが胸に刺さる。

『大統領の演説』 パックン(パトリック・ハーラン)

アメリカ大統領の演説はなぜ力強く聞くものの心を揺さぶるのか。スピーチをそれほどまでに練り上げ目指すものは何なのか。歴代大統領の名演説や国民の心をつかみ切れなかった失敗演説を取り上げ、そこで使われている様々なテクニックを詳細に解説する。とてもわかりやすくかかれており、著者の頭の良さに改めて気付かされる本。

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