あなたを旅に誘う文章
こんにちは。あなたは旅が好きですか――
旅行が好きな現代人
旅行が好きだと言う人は多い。
趣味は旅行ですという人にも過去にたくさん出会ったし、機会がある度に海外に出かけている人もいる。
ときに友達と、ときに家族や恋人と、ときには一人で旅に出る。あなたの知らない世界がそこには広がっている。有名な場所を巡り、美味しい料理を食べ、心のメモリーに風景を焼き付ける。
それは素敵な経験だ。そうして非日常を満喫したら、気持ちをリフレッシュさせてまた日常に臨む。
もっと気軽に行けたら良いのに
とは言え、旅行は言うほど簡単に行けるものではない。
仕事が忙しけりゃまとまった休みを取るのも大変だし、よしんば休みが取れたって、先立つお金だって必要になる。それほど気楽には出かけられない。まして、家族がいるとなると尚更だ。
今のコロナウィルスのように、社会的な状況に制限されることもある。
ずっと自宅で謹慎していて代わり映えのない日々が続く。気付けば春は過ぎ去り、もう夏が真っ盛りだ。しかし今年は何か寂しい。甲子園は中止になり、海も花火もやっていない。こんなときこそどこかに出かけてみたいのに、なかなかそれは許されない。
そうだ、本を読もう
そんなときは本を読もう。旅行ガイドブックではなく、旅の紀行文だ。
文章で旅行をするのは、自分の足で歩き目で見るのとはまた違った趣がある。
そこには著者の感覚を通した世界がある。「あぁ、この人はこういう風に世界を見ているんだ」と、新しい視点に刺激を受ける。
もちろん、読み手の一人一人でも受け取り方が違うから、その場所と、著者の視点と、読み手の感性とが相まって、数えきれないほどの場面が広がる。
十人十色。千変万化。きっと世界は限りない。
腹を抱える出来事も、煮え切らない思いをしたことも、現地の人との何気ないやり取りも、いろんな経験が本の中には詰まってる。それにちょっと彩りを加えた、極上の文章で追体験してみよう。
砂の街を行く砂漠さん
さて、今日は紙の本ではなく、インターネットで出会った文章を紹介させてもらいたい。
今年の初め頃、中国のウイグルが人権問題で取り上げられているニュースを目にした。
その記事を読んで去年ウイグルのカシュガルに行ったことを思い出した僕は、何気なく「カシュガル」について検索していた。そして砂漠さんの文章に出会った。
砂漠さんの後を追う
砂漠さんというのが誰なのか僕は知らない。少し前に会社勤めを辞めた女性で、今はフリーでツイッターなどで文章を公開しているようだ。
僕が読んだのは「徹夜明けに、知らない人とウイグルを旅した日々のこと」だ。
文章の読みやすさ、情景が浮かぶ表現力もさることながら、色々おかしな設定と鋭い視点に引き込まれた。
まず、タイトルからして「知らない人とウイグルを旅した」である。旅先で出会った知らない人ではない。最初から知らない人たちと共に、わざわざウイグルへ旅をしに行ったのだ。そんな状況ってあるだろうか。
とりあえず、あらすじを見てみよう。
徹夜明けに、知らない人と新疆ウイグル自治区へ旅行に行った。砂漠の中で仕事をして、夜行列車の窓からふるような星空を見て、廃墟の温泉で死ぬほど笑って、塩辛いミルクティーを飲んだ。
気が狂いそうなほど美しく、ありえないほど公安だらけの街で過ごした10日間の話。
おぉ、青春をぎゅっと詰め込んだような、とっても素敵な話じゃないですか。
ちなみにこのあらすじに嘘はない。これらの要素全てが不足なく詰め込まれている。
ただそこに、様々な出来事とかなり変わった登場人物が加わって旅路を賑やかにしているだけだ。
出発前、会社での同僚とのやり取りが象徴的だ。
旅行の詳細を聞くと、同僚たちの善良な笑顔はさっと曇った。
彼らは問う。
「どうして、ハワイでもセブ島でもなく、ウイグルなのか」
「どうして、親しい友人や家族と行かないのか」もっともな疑問だ。私は、どうして、気が合うかわからない人々と、楽しいかわからない場所に行こうとしているのだろう。自分にもわからない。どちらかといえば、こちらが問い返したいくらいだ。
「どうして私は、知らない人とウイグルに行くのでしょう?」
知るか。
そんなことを問われて、あなた以外の誰が答えられるというのか。
そんな、旅行というよりギャンブルと表現した方がしっくりくる旅の行程は、砂漠さんの鋭い視点で鮮やかに切り取られていく。尊師(同行者のニックネーム)の怪しげな言動や、謎の秘密結社うどん部のくだり、中国公安部とのやり取りなど、見どころは尽きない。
それから、文章の間に挟まれている写真がとても綺麗で、これだけ見ていても飽きない。鮮やかな色合いのタイルと、突き抜ける空の青さが目を覚ます。ウイグルの乾いた空気まで吹いてきそうなほどだ。
読んだら危ない
もしあなたが現状旅行に行く余裕がないのなら、この文章は今はまだ読まない方が良い。
なぜなら、きっと自分でも青春を味わいたくなってしまうからだ。読んだら最後、我慢できなくなること間違いなしなんだ。
ところで、誰にでもこんなハチャメチャで魅力的で摩訶不思議な経験が待っているのだろうか。そのチャンスは転がっているのだろうか。
それは砂漠さんだからこその特別な経験だったのではないだろうか。
そうかもしれない。少なくとも、この文章は砂漠さんだからこそ書けたのだろう。
それでも、きっかけはきっともっと単純だ。踏み出すかどうかだけなんだ。どういうわけか、そういう気持ちになったなら、それはきっと素敵なことなのでしょう。
でも、私は突然、久しぶりの夏休みを、確実に楽しい場所ではなく、楽しいかよくわからない場所で過ごしてみたくなったのだ。知らない人に誘われて、どういうわけか、そういう気持ちになったのだ。
徹夜明けに、知らない人とウイグルを旅した日々のこと | note
歳はアラフォー、性別は男。風薫る季節、北の大地で生を受ける。家庭なし、収入なし、計画性なし。まだ知らぬ場所での生活にあこがれて旅立ってしまったアラフォーマン。
2019年5月に日本を離れ、デンマーク、リトアニア、ジョージアなどで学校に通ったりしながら過ごす。2024年9月現在、日本語を教えるボランティアとしてベトナムに滞在中。
好きなもの:公園、散歩、ジャグリング
苦手なこと:料理、おしゃれ、あと泳げません