フォルケホイスコーレ|北欧の学校で学んでみよう
フォルケホイスコーレというものをご存知でしょうか。英語で書くとFolk High Schoolです。「知ってるよ!」という方はあまり多くないかもしれませんね。
フォルケホイスコーレとは主に北欧で展開されている学校の一形態で、日本人が考える普通の学校とは少し異なります。今日はこのフォルケホイスコーレについて紹介したいと思います。
フォルケホイスコーレとは
フォルケホイスコーレをWikipedia日本語版で調べてみると、「民衆の民衆による民衆のための成人教育機関」と書いてあります。これだけでは何のことかちょっと掴みきれませんね。少しずつ中身を見ていきましょう。
デンマークのフォルケホイスコーレのホームページを訪れると、トップページには次のように書かれています。
A FOLK HIGH SCHOOL IS…
… a school where you live and learn together. There are no prerequisites, no exams, and no grades. Your motivation and interests are the main driving force.
(フォルケホイスコーレとは、共に学び生活する学校です。入学のために必要な資格はありませんし、試験も成績もありません。あなたのやる気と興味が原動力なのです。)
何かを学ぶ学校であることは確かです。しかし、それは日本の一般的な学校のように、決められた教科を試験のために学ぶという性格のものではありません。ここを卒業しても卒業証書も資格も得られませんが、それ以上の何かを見つけられるかもしれません。映画やスポーツといった幅広い分野をテーマにして、集まった他の学生たちと共に生活を営みながら、成績には表せない何かを学ぶ場なのです。
こちらの動画をさらさらっと観ていただければ雰囲気が掴めると思います。
フォルケホイスコーレの特徴
フォルケホイスコーレの特徴は多岐に渡り、一概にこういうものだと定義することは難しいです。学校ごとにも個性が目立ち、やっていることも様々です。ただ、全ての学校に通ずる一般的な理念・性質としては次のようなことが挙げられます。
共同生活
フォルケホイスコーレは共同生活を基本として成り立っています。入学した後は各学校に併設されている寮に住み、先生も生徒も同じ建物で暮らします。清掃や炊事も協力してこなし、生活のルールも自分たちで話し合いながら決めていきます。人と密接にかかわり合いながら、人との関係を学んでいくわけです。
多様性
フォルケホイスコーレで学ぶ学生の国籍は、もちろんその国の人が最も多いのですが、世界中からはるばるやってきた留学生がたくさんいます。 スカンジナビアの人、EUの人、その他様々な地域から訪れた人、たくさんの人々と知り合うチャンスがあります。多様な文化に触れることができるのも、フォルケホイスコーレの魅力の一つです。
フォルケホイスコーレの中には外国人向けにデザインされたコースもあります。そちらでは英語を公用語としており、より多くの国々から学生が集まるそうです。例えばデンマークの International People’s College が有名です。
International People’s College
中には日本と関わりの深い学校もあり、そちらには日本語の学校案内があったりスタッフに日本人がいたりもするそうですので、海外生活に不安が残るという方はこちらを検討するのも良さそうです。
近年、フォルケホイスコーレへ申し込む日本人が増加傾向にあるようです。そちらについてはフォルケホイスコーレに日本人多すぎ問題をご覧ください。
卒業試験がない
フォルケホイスコーレには卒業試験がありません。そもそも、卒業試験に限らずあらゆる試験がないのです。学ぶということの本質は、あるスケールで測るようなものではないということなのでしょうね。
コースのテーマに特化した知識・技術を身に付けるのか、包括的な視点で課題を認識し直すのか、全く新しいことを思いつくのか、何を得るのかはその人次第です。はたまた人付き合いの方法や新たな自分の認識など、コースのテーマとは直接関係ないところで気付くことがあるかもしれません。
自主性
上記の様に試験はないのですが、「誰でも入学できるし、楽で良いな」とはなりません。学生には自主的に行動する意欲が求められます。自主性は北欧の国々が特に重んじることの一つです。そして、入学したからには勉学に勤しむ責任があります。なぜなら、フォルケホイスコーレは多額の補助金の上に成り立っているからです。言い換えると、その国の人たちの税金です。
外国人なら尚更で、分けてもらえた学ぶチャンスにしっかりと取り組まなければなりませんね。
各国のフォルケホイスコーレ
フォルケホイスコーレは主に北欧諸国を中心に広がっています。制度は国によって異なりますが、基本理念は共通しています。
呼称は各言語によっていくらか異なり、「フォルケホイスコーレ」というのはデンマークでの呼称です。最初にフォルケホイスコーレの理念を唱えたのはデンマーク人のグロンドヴィという方でした。
- Danish: Folkehøjskole
- Swedish: Folkhögskola
- Norwegian: Folkehøgskole
- Finnish: kansanopisto and työväenopisto or kansalaisopisto
o(オー)に点々が付いていたり斜線が入ったり、見た目にちょっとかわいいですね。ちなみにデンマーク語の発音は見た目に反して全くかわいくなくて、「熱々のポテトを口に入れて喋るとデンマーク語になる」などと言われます。ひどい言われようです。
デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語は3兄弟と呼ばれるほど似た言語です。一方でフィンランド語はこれらの言語とも他のヨーロッパ言語と全く異なる言語グループに属します。フォルケホイスコーレに相当する単語もフィンランド語だけ全然想像も付かない形をしていますね。
上記の他にもドイツやスイス、オーストラリアでも同様のコンセプトの学校があるそうです。
どんなテーマを学べるの?
幅広い分野の様々なことがテーマになっています。
映画や音楽などの趣味のテーマ、歴史や政治などの人文的なテーマ、スポーツ、介護、デザインや建築、食、宗教からアウトドアまで本当に多種多様なテーマにフォーカスしたコースが開かれています。ただし、大学で学ぶような専門性の高いテーマはほとんどないようです。
選べるテーマは学校ごとに異なっており、自分の学びたいテーマのある学校の中から雰囲気の良さそうなものを選ぶと良いでしょう。
どんな人が入学できるの?
デンマーク、スウェーデン、ノルウェーのフォルケホイスコーレは18歳以上であれば誰でも入学可能です。年齢の上限はなく、入学試験もありません。
ただ、注意が必要な点として、現地語を前提としているコースも多いです。そのようなコースでは授業が現地語で行われるため、それなりの会話の実力がないとついていくのは厳しいでしょう。
一方、外国人向けの英語で行われるコースもいくつもあります。北欧言語を学んだことのない方はこちらのコースから検討することになりますね。もちろんこちらのコースでも、英語力でコミュニケーションができる能力が必要なのは言うまでもありません。
こちらの記事でホイスコーレに必要な語学力について考察しましたのでご覧ください。
上記の国は、3か月以内の滞在であればビザは必要ありません。それ以上滞在する場合にはビザが必要になります。
フォルケホイスコーレに通う場合であれば学生ビザを取得可能です。ビザの申請方法については後述します。ワーキングホリデービザが取得できるのであればそれも良いでしょう。
2019年現在、フィンランドのフォルケホイスコーレには外国人は入学できません。
期間は?
長期コース(通常コース)は概ね3か月から10か月のコースになっています。5か月程度のところが多いようです。
短期コースでは1週間、2週間というものもあります。日本人でも、会社に勤めながら長期休暇を利用してこれらのコースに参加する方もいるそうです。
また、メインのコースの他にも、始まる前に1,2週程度語学を学べる事前コースを開講していたり、コースの終わりに修学旅行のようなもの(自費参加)が用意されていたりします。せっかく長い時間を共に過ごすのだから、なんとか現地語でのコミュニケーションができるようになって、最後は特別な旅行の思い出を作りたいですね。
どれぐらいのお金が必要か?
北欧は概して物価が高いので、費用がどれくらいになるかが気になるところです。
国や学校、選んだコースによっても費用はピンからキリまであるので一概にいくらとは言えません。
デンマークのフォルケホイスコーレについていくつか調べたところ、長期コースでは週に2万5千円〜3万円ぐらいのところが多いようです。これには授業料、寮費、食事代が含まれており、普通に生活をするだけなら他の出費はかかりません。仮に5か月のコースを受講したとして授業料が60万円、その他の余暇に使うお金、あとは往復の交通費として15万ほどと考えると計80〜90万円ぐらいですかね。2コースを続けて受講すると10か月で150万ぐらいでしょうか。
この金額は物価の高い北欧においてはもちろん、他国と比較しても非常に安いものです。なぜこんなに安価に学ぶことができるのでしょうか。
ヒントは北欧諸国が福祉国家であることです。これらの国では「教育は全ての人が等しく受けられるようにすべきだ」という考えが根付いており、教育関係に多額の補助金が使われています。フォルケホイスコーレも例外ではなく、これらの国に住む人の税金に助けてもらって学生は低額で授業を受けることができるのです。そのことを忘れないようにしないといけませんね。
入学の申し込みは?
フォルケホイスコーレへの入学申し込みは各学校に直接行います。学校のホームページに申し込み方法の説明がありますので、それにしたがって進めましょう。
申込みを始めてから完了までは思っているより時間がかかるそうです。とあるホームページには「最低半年程度が必要」と書いてありました。異国とのやり取りは確かに手違いも多く思うように進まないものなので早めに準備するに越したことはありません。
フォルケホイスコーレの公式ホームページでも「どんなに遅くても3か月前までには手続きを始めてください」とありますが、僕の申し込んだカルーホイスコーレでは8月開始の秋コースの代金振込み締切が3月と、ちょうど5ヶ月前でした。詳細は各ホイスコーレに確認してみましょう。
ビザ申請から発給までは一般的に2か月ほどかかるようです。
1.受講コースの選択
まずは入学する学校、コースを決めましょう。
2.フォルケホイスコーレへ申し込み
どのコースを希望するか決めたら学校にコンタクトを取ります。大抵はホームページにエントリーの手順が書いてありますが、見つけられない場合はメールなどを送りましょう。
学校側からの反応を待ちます。カルーホイスコーレの担当の方は非常にスピーディに返信をくれましたが、学校によっては返事がすぐには来ないところもあるそうです。あまり気長に待ちすぎると向こうが気付いていない場合もありますので、適度に追撃のメールを送ってみましょう。
資料が届いたら、指示通りに学費を振り込みます。学費が振り込まれたことが確認できれば入学許可の書類が届きます。学費の振込みはTransferWiseという海外送金サービスをお勧めします。
3.ビザの申請
デンマーク入国管理局のホームページでCase Order IDを取得し、ビザ申請を行います。そのとき、パスポートのコピーや申請手数料の振り込み証明を用意しておきましょう。その後、ビザ申請センターに行き生体情報を登録します。登録には事前予約が必要です。申請の詳細は、デンマークビザ申請の流れをご覧ください。
無事に審査が通れば居住許可通知が郵送されてきます。内容の詳細はデンマークの居住許可通知書をご覧ください。
フォルケホイスコーレの情報はどうやって調べれば良いか
日本語のホームページ
日本語の情報は少ないです。こちらのサイトが参考になります。
北欧留学ナビ
サイトのデザインはやや古臭いですが、フォルケホイスコーレの一般的な情報が全て揃っています。特に精神面での準備について熱く書かれています。まずはこのサイトを参考にすると良いでしょう。
IFAS(アイファス)
それぞれのフォルケホイスコーレの特徴を紹介しています。また、ビザの取得などに関する情報もQ&Aとしてまとまっています。フォルケホイスコーレに行きたいという想いが大きくなってきたら、こちらのサイトで具体的な計画を立てていきましょう。
英語のホームページ
下記は英語のサイトです。日本語の情報は上記2つと個人ブログしかないようですので、もっと情報が欲しいときには英文を読めることが必須になります。文章は非常にわかりやすいので、英語があまり得意ではないという方でも読めると思います。
The Association of Folk High Schools in Denmark
デンマークのフォルケホイスコーレ協会のホームページです。フォルケホイスコーレの基本的性質、目指す姿、デンマークについてなどを紹介しています。各個の学校についての詳細な説明はありませんが、コースによる学校の分類やホームページへのリンクがありますので希望の学校を探すときにも役立ちます。なお、リンク先の学校ホームページはデンマーク語のみのところもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事ではフォルケホイスコーレという制度と、その魅力を紹介させていただきました。今までフォルケホイスコーレを知らなかったという方にも、ぜひ選択肢の一つとして考えてみてほしいと思います。知らない土地での生活が、あなたの参加を待っていますよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは、今日はこの辺で。
歳はアラフォー、性別は男。風薫る季節、北の大地で生を受ける。家庭なし、収入なし、計画性なし。まだ知らぬ場所での生活にあこがれて旅立ってしまったアラフォーマン。
2019年5月に日本を離れ、デンマーク、リトアニア、ジョージアなどで学校に通ったりしながら過ごす。2024年9月現在、日本語を教えるボランティアとしてベトナムに滞在中。
好きなもの:公園、散歩、ジャグリング
苦手なこと:料理、おしゃれ、あと泳げません